マンション売却の契約から決済・引き渡しまで


                マンション売却の契約から決済・引き渡しまで

マンションの購入条件がまとまり売買契約を結んでも、売却はまだ完了ではありません。契約前には、購入申込で合意した売買価格・手付金・決済日・引き渡し状態・融資利用に関する条件・解除条項・特約等が契約書へ正しく反映されているか確認します。契約後は、住宅ローン完済、抵当権抹消・所有権移転の登記準備、退去、残置物整理、鍵・関係資料の準備を進め、残代金等の決済と必要な手続きを経て、契約で約束した状態でマンションを引き渡します。

契約から引き渡しまでの流れ
段階 主なこと 売主が確認・準備すること
契約前 最終条件の確認 売買価格、支払条件、決済・引き渡し、設備・物件状態等
売買契約 契約条件を確定 手付金、解除条件、融資利用、特約等を含め契約内容を確認
契約後 決済・引き渡し準備 ローン完済、登記、退去、残置物、鍵・書類等
決済 残代金等の授受・登記手続き 入金、ローン完済、精算、登記関係書類等を確認
引き渡し マンションを買主へ引き渡す 契約に沿って鍵・関係資料等を渡す
売主の基本は「契約した内容を、決済・引き渡しまで正確に実行すること」です。契約から決済までの期間や手続方法は取引によって異なるため、日数や手順を一律に考えず、実際の契約書と不動産会社・金融機関・司法書士等からの案内を確認します。

購入申込時の条件交渉を確認したい場合は、購入申込と値引き交渉を確認してください。

1. 契約前は購入申込の条件と契約書を照合する

売主と買主の条件がまとまったら、最初に確認したいのが購入申込で合意した内容と、売買契約書等に記載された内容が一致しているかです。

購入申込で売買価格や引き渡し時期を話し合っていても、その内容が自動的にすべて契約条件になるわけではありません。最終的に重要なのは、売主と買主がどのような契約内容で合意するかです。

売買契約で何を見る?
確認項目 確認すること 特に見るところ
売買価格・支払 売買価格、手付金、残代金等、支払時期・方法 購入申込でまとまった条件との食い違いがないか
決済・引き渡し 決済日、引き渡し日、引き渡し状態、所有権移転に関する定め 退去や各種手続きが間に合う条件か
設備・物件状態 残す設備、撤去するもの、把握している不具合・修理履歴等 これまでの説明と契約書類に食い違いがないか
買主の融資利用 融資利用に関する条件、期限、不成立の場合の扱い等 どのような場合に契約へ影響するか
契約解除 解除できる場合、手付、違約等に関する条項 売主・買主それぞれの義務と条件
精算・特約 固定資産税等、管理費等の精算、個別の特約 事前に合意した内容と一致しているか

設備や物件の不具合は具体的に確認する

実務では、売主が把握している物件状態や設備について、物件状況報告書や付帯設備表等の書類を使用する場合があります。書式や名称は不動産会社・契約によって異なり、すべての売買で同じ2種類の書類が法律上必須という意味ではありません。

重要なのは、何を残して引き渡すのか、どの設備にどのような不具合があるのか、過去にどのような修理・不具合があったのかを可能な範囲で具体的に整理し、不動産会社へ正確に伝えることです。

契約後から引き渡しまでに新しい故障、破損、漏水等が起きた場合も、自己判断で何もなかったことにせず、すぐ不動産会社へ連絡し、契約内容に沿った対応を確認します。勝手に修理すれば必ず解決するとは限りません。

2. 売買契約では手付金・解除条件・融資利用も確認する

売買契約では、売買価格や引き渡し日だけでなく、手付金、残代金等の支払、契約解除、買主の融資利用、物件状態、特約等を確認します。

手付金は売却価格とは別の追加収入ではない

手付金がある契約では、金額、支払時期、売買代金へどのように充当するか、契約解除との関係を契約書で確認します。

手付金を一律に「売買価格の10%」等と考えることはできません。また、売買代金へ充当する契約であれば、売却価格とは別に追加でもらえるお金ではありません。

民法上、手付は契約解除と関係する場合がありますが、相手方が契約の履行に着手した後は民法第557条による手付解除ができない旨も定められています。実際の取引では契約上の期限や特約等も確認し、「買主はいつでも手付を放棄すれば解除できる」「売主はいつでも倍額を返せば解除できる」と単純化しないことが重要です。

買主の住宅ローンは契約上の条件を確認する

買主が住宅ローンを利用する場合、契約では融資を利用する金融機関等、予定融資額、承認期限、不成立となった場合の契約上の扱い等を定める場合があります。

具体的な内容は契約によります。住宅ローンの事前審査を通過していても、その後の融資を保証するものとは限りません。また、融資が成立しなければすべての取引で自動的に同じ条件で解除されるとも限りません。

買主の住宅ローン手続き自体は基本的に買主側が行います。売主は、決済日程へ関係するため、不動産会社を通じて必要な進捗を確認します。

重要事項説明と売主の役割を混同しない

不動産会社が媒介する取引では、宅地建物取引士による重要事項説明が行われます。重要事項説明は、宅地建物取引業法に基づき、主として買主等が契約前に重要な事項の説明を受ける制度です。

売主自身が買主に重要事項説明書を読み上げることが売主の役割というわけではありません。売主にとって重要なのは、不動産会社へ伝えた物件情報や物件状態が正確であること、そして売買契約の内容とこれまでの説明に食い違いがないことです。

3. 契約後は決済・引き渡しの準備を進める

売買契約を結んだあとも、売主側には複数の準備があります。特に住宅ローンが残っている場合や、登記簿上の住所・氏名が現在と異なる場合は、早めの確認が必要です。

契約後、売主は何を準備する?
準備 確認すること 主な確認先
住宅ローン 決済日に必要な完済額、全額返済の方法・必要期間・必要書類 利用金融機関
登記 抵当権、登記上の住所・氏名、登記識別情報等、必要書類 司法書士・法務局
退去 契約で定めた引き渡し状態・期日までに退去できるか 売買契約書・不動産会社
設備・残置物 残す設備、撤去する家具・家電等 契約書・設備関係書類・不動産会社
鍵・関係資料 鍵、カード、管理関係資料、設備資料等 不動産会社
精算 固定資産税等、管理費・修繕積立金等の契約上の精算 売買契約書・不動産会社・管理会社

住宅ローンが残っている場合は完済手続きを早めに確認する

住宅ローン残債がある場合は、売却代金等を使ってローンを完済し、売主側の抵当権を抹消できるよう準備します。

金融機関によって全額返済の申込方法、必要な期間、完済日に受け取る書類等が異なります。決済日が決まったら、できるだけ早く利用金融機関へ連絡し、全額返済の手続きと必要期間を確認してください。

また、以前確認した住宅ローン残債と、実際の決済日に完済するために必要な金額が同じとは限りません。決済日が具体化したら、その日に必要な完済額を金融機関へ確認します。

抵当権抹消・所有権移転の登記を準備する

決済では、司法書士等が関与する取引では、本人確認や登記関係書類を確認し、売主側の抵当権抹消、買主への所有権移転等に必要な登記申請を進めます。

決済日に登記簿がその場で即時に買主名義へ書き換わるわけではありません。法務局へ登記申請をしたあと、登記官による審査を経て登記が完了します。所有権が移転する時期についても、実際の売買契約の定めを確認します。

登記上の住所・氏名を確認する

2026年4月1日から、不動産所有者の住所・氏名等に変更があった場合の変更登記が義務化されています。

登記簿上の住所・氏名と現在の住所・氏名が異なる場合は、所有権移転登記へ進むために必要な手続きを司法書士等へ早めに確認してください。住所が違うだけでマンションを売却できないという意味ではありませんが、売却時の登記手続きに備えて整えておく必要があります。

スマート変更登記の制度も始まっていますが、売却等をすぐ行う必要があり、登記簿上の住所等がまだ更新されていない場合には、別途、住所等変更登記が必要となることがあります。実際に必要な手続きは司法書士等へ確認してください。

登記識別情報・権利証も早めに確認する

登記識別情報や従来の権利証を保管しているかも確認します。見つからない場合でも、直ちに売却できなくなるわけではありません。別の本人確認手続きが必要になる場合があるため、早い段階で司法書士へ伝えてください。

いつ何を用意する?
時期 主な準備 確認先
売買契約前 契約条件、物件状態・設備に関する資料等 不動産会社
売買契約時 本人確認、契約に必要となる書類等 不動産会社
契約後 ローン完済、登記、退去、残置物整理 金融機関・司法書士・不動産会社
決済前 決済金額、登記関係書類、鍵、関係資料等 不動産会社・司法書士・金融機関
引き渡し 契約で引き渡す鍵・関係資料等 買主・不動産会社

売主が用意するものの代表例

  • 本人確認書類
  • 実印・印鑑証明書等
  • 登記識別情報または権利証
  • 住所・氏名変更等で必要となる書類
  • 住宅ローン完済に関する書類
  • 鍵・カード類
  • 管理規約・使用細則等の関係資料
  • 設備の取扱説明書等

実際に必要となるものは、取引内容、登記内容、金融機関等によって異なります。不動産会社・司法書士・金融機関から、今回の取引で必要なものを一覧で確認してください。

退去・残置物・マンションの管理手続きも確認する

居住中のマンションでは、契約で合意した引き渡し状態・引き渡し期日までに退去等を完了できるよう準備します。決済日と引き渡し日が必ず同じとは限らず、契約によって引き渡し時期や条件が異なります。

家具、家電、照明、カーテン、エアコン等も、「次の人が使うだろう」と自己判断で残さないようにします。反対に、買主へ引き渡すことになっている設備を勝手に撤去してはいけません。何を残し、何を撤去するかは契約内容等で確認します。

マンションでは、管理会社・管理組合との手続き、駐車場・駐輪場・共用施設等の解約や返却、管理費・修繕積立金等の精算が発生する場合があります。必要な届出や方法はマンションごとに異なるため、管理規約・使用細則や管理会社の案内を確認します。

固定資産税・都市計画税、管理費・修繕積立金等を売主・買主間で精算する場合も、基準日や計算方法は売買契約を確認してください。税法上の納税義務者と、売買契約上の当事者間精算は別の問題です。

4. 決済・引き渡しで売却を完了させる

決済は、売買契約で約束した残代金等の支払いや、ローン完済・登記等に必要な手続きを進め、マンションを引き渡すための最終段階です。

現在は振込等による資金移動も行われており、「銀行の窓口に関係者全員が集まり、現金を数えること」が決済の定義ではありません。取引方法や金融機関等に応じて進め方は異なります。

決済日に誰が何をする?
関係者 主な役割
売主 必要書類への対応、残代金等の受領確認、必要なローン完済、鍵・関係資料等の引き渡し
買主 残代金等の支払い、登記・融資等に必要な対応
不動産会社 契約条件、金銭の精算、引き渡し等の確認・調整
司法書士 関与する場合、本人確認、登記関係書類の確認、登記申請等
金融機関 買主の融資実行、売主のローン完済・抵当権抹消書類等への対応

一般的には、登記関係の確認、残代金等の支払い、売主の住宅ローン完済、抵当権抹消・所有権移転の登記手続き、契約上必要な精算、鍵・関係資料等の引き渡しを進めます。ただし、すべての取引で必ず同じ順番になるわけではなく、複数の手続きが並行して進む場合もあります。

買主の住宅ローンと売主のローン完済は別の手続き

決済時には、買主が住宅ローンを利用して売買代金を支払う一方で、売主にも住宅ローン残債があれば、その売却代金等からローンを完済する場合があります。

「買主が借りる住宅ローン」と「売主が返す住宅ローン」は別の手続きとして整理するとわかりやすくなります。

4,500万円で売却した場合の例

架空例

売買価格:4,500万円
契約時の手付金:200万円
※手付金を売買代金へ充当する契約とします。
売主:住宅ローン残債あり
買主:住宅ローン利用予定
売主:契約で合意した引き渡しまでに退去予定

この契約で200万円の手付金を売買代金へ充当する場合、売買代金の残額は、

4,500万円-200万円=4,300万円

という考え方になります。この4,300万円が「手付金の残金」なのではなく、売買代金の残代金です。

実際の決済では、固定資産税等、管理費等、そのほか契約上の金銭の精算が加減される場合があります。また、売主側では住宅ローン完済、仲介手数料、登記関係費用等の支払いがある場合があります。

したがって、決済日に口座へ入った金額=売却価格=最終的な手取りではありません。この金額例は説明用の架空例であり、標準的な手付金額や決済条件を示すものではありません。

売買契約後、何をする?

契約条件を最終確認

売買契約

住宅ローン残債があれば金融機関へ完済手続きを確認

抵当権・住所・氏名・登記識別情報等を司法書士等と確認

退去・残置物・設備・管理関係の手続きを進める

決済金額・必要書類・鍵等を最終確認

残代金等の決済・ローン完済・登記手続き

契約に沿って鍵・関係資料等を引き渡す

不動産会社等へ確認しておきたいこと

  1. 購入申込でまとまった条件は、契約書等へすべて正しく反映されていますか?
  2. 手付金・残代金等は、いつ、どのような方法で授受しますか?
  3. 解除条項・融資利用に関する条件・特約で、特に確認すべき点はありますか?
  4. 決済・引き渡しまでに、売主が準備する書類・鍵・資料は何ですか?
  5. 住宅ローンを完済する場合、金融機関へどの手続きが必要ですか?
  6. 抵当権や登記上の住所・氏名について、事前に必要な登記はありますか?
  7. 決済日に受け取る金額・支払う金額・精算額を一覧で確認できますか?
  8. 管理会社等へ売却に伴って行う手続きはありますか?

売買契約から引き渡しまでの売主チェックリスト

  • 購入申込でまとまった条件と契約書等を照合した
  • 売買価格・手付金・残代金等の支払条件を確認した
  • 決済日・引き渡し日・引き渡し状態を確認した
  • 融資利用・契約解除・特約の内容を確認した
  • 設備・物件状態の説明に漏れや食い違いがないか確認した
  • 住宅ローンの完済額・完済手続きを金融機関へ確認した
  • 抵当権、登記上の住所・氏名、登記識別情報等を確認した
  • 退去・残置物・設備・管理関係の手続きを確認した
  • 決済に必要な書類、鍵、関係資料を準備した
  • 決済時の受取額・支払額・精算内容と引き渡すものを最終確認した

売買契約を結んだ時点では、マンション売却はまだ途中です。契約内容を正しく確認し、その条件どおりに決済・引き渡しの準備を進めることが、売主の最後の仕事になります。

査定から決済・引き渡しまで売却全体の位置づけを確認したい場合は、マンション売却は何から始める?査定~引き渡しまで全体の流れも参考にしてください。


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参考資料

  • e-Gov法令検索「民法」
  • e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」
  • 国土交通省「<消費者の皆様向け>不動産取引に関するお知らせ」
  • 法務省「スマート変更登記(登記官の職権による住所等変更登記)」
  • 法務局「登記の申請を御検討されている皆さまへ」
  • 法務省「新不動産登記法Q&A」
  • 三菱UFJ銀行「自宅を売却するため、住宅ローンを全額返済したい。」
  • 三井住友銀行「売却や借り換えによる繰上返済手続について知りたい」
  • 池田浩一『知りたいことが全部わかる! 不動産の教科書』株式会社ソーテック社
  • 池田浩一『7日でマスター 不動産がおもしろいくらいわかる本』株式会社ソーテック社